《新藤兼人賞》
日本映画の独立プロによって組織される日本映画製作者協会に所属する現役プロデューサーが
その年度で最も優れた新人監督を選びます。完成度や将来性のみならず、
「この監督と組んで仕事をしてみたい」 「今後この監督に映画を作らせてみたい」
というプロデューサーの観点を含む日本で唯一の新人監督賞です。
本年28年目を迎える本賞は「新人監督たちを発掘、評価し、
今後の日本映画界を背負ってゆく人材を育てたい」というプロデューサー達の思いから1996年に
「最優秀新人監督賞」として始まり、2000年より“日本のインディペンデント映画の先駆者”である
新藤兼人監督の名前をいただき現在の名称となりました。
受賞者には新藤監督デザインのオリジナルトロフィーと、副賞として
金賞には賞金50万円並びにUDCast賞※、銀賞には25万円を贈呈いたします。
(2023年度は200作品が選考対象となりました)
※ UDCast賞:Palabra株式会社より、金賞受賞作のバリアフリー版制作及びUDCastを提供。
受賞作がバリアフリー化されている場合は、金賞受賞監督の次回作に提供。
《プロデューサー賞》
“優秀な作品の完成に貢献を果たしたプロデューサーや企画者”の功績を称えることで
映画製作者への刺激を与え、日本映画界の活性化に繋げたいという願いから
2005年にプロデューサー賞は18回目を迎えます。受賞者には正賞のクリスタルトロフィーと、
副賞として賞金50万円を贈呈いたします
対象作品選考規定
【金賞・銀賞】
・前年12月〜本年11月公開の劇場用実写長編映画(60分以上)
・監督がデビュー(劇場公開長編実写映画)から3作品目以内であること
(アニメ、及びオムニバス作品の一編は作品数にカウントしない)
※公開とは有料で劇場及びホールで1週間以上有料上映された事を意味する。
※オムニバス映画の一編を監督した場合は作品数に含まない。
※アニメーションは作品数に含まない。
【プロデューサー賞】
・前年12月〜本年11月公開の劇場用実写長編映画(60分以上)
2023年度
審査委員会
【金賞・銀賞】
協会所属の現役プロデューサーで構成される審査委員会にて討議を重ね、金賞、銀賞の受賞者を決定。
審査委員長
永井 拓郎
NAGAI Takuro
RIKIプロジェクト
1977年石川県生まれ。キャスティングアシスタント、俳優のマネージメントを経て、2004年RIKIプロジェクト参画、2016年代表取締役就任。主なプロデュース作品は『ひゃくはち』(’08/森義隆監督)、『ぼくたちの家族』(’14/石井裕也監督)、『聖の青春』(’16/森義隆監督)、『ある船頭の話』(’19/オダギリジョー監督)、『生きちゃった』(’20/石井裕也監督)、『私をくいとめて』(’20/大九明子)、『茜色に焼かれる』(’21/石井裕也監督)、『アジアの天使』(’21/石井裕也監督)、『死刑にいたる病』(’22/白石和彌監督)、『川っぺりムコリッタ』(’22/荻上直子監督)、『月』(’23/石井裕也監督)、『愛にイナズマ』(’23/石井裕也監督)等。
審査委員
佐藤 美由紀
SATO Miyuki
オフィス・シロウズ
1993年の設立時よりオフィス・シロウズに参加し、『空がこんなに青いわけがない』(93/柄本明監督)以降のシロウズ作品の制作に携わる。初プロデュース作品は『20世紀ノスタルジア』(97/原將人監督)。主なプロデュース作品として『ナビィの恋』(99/中江裕司監督)、『柔らかな頬」(01/長崎俊一監督/BS-i)、『ホテル・ハイビスカス』(02/中江裕司監督)、『コンセント』(02/中原俊監督)、『ルート225』(06/中村義洋監督)、『キツツキと雨』(11/沖田修一監督)、『モヒカン故郷に帰る』(16/沖田修一監督)、『川のほとりで」(21/平山秀幸監督/WOWOWドラマW)、『子供はわかってあげない』(21/沖田修一監督)など。
三宅 はるえ
MIYAKE Harue
ブースタープロジェクト
『LOVE MY LIFE』(06年/川野浩司監督)以降映画プロデュースを手掛ける。主なフィルモグラフィに『イン・ザ・ヒーロー』('14/武正晴監督)、『最後の命』('14/松本准平監督)、『at Homeアットホーム』('15/蝶野博監督)、『世界は今日から君のもの』('17/尾崎将也監督)、『KOKORO』('17/ヴァンニャ・ダルカンタラ監督)、『あの日のオルガン』('19/平松恵美子監督)、『王様になれ』('19/オクイシュージ監督)、『閉鎖病棟-それぞれの朝-』('19/平山秀幸監督)、『アイヌモシリ』('20/福永壮志監督)、『樹海村』('21/清水崇監督)、『ホムンクルス』('21/清水崇監督)、『牛首村』('22/清水崇監督)、『世界の終わりから』('23/紀里谷和明監督)、『山女』(’23/福永壮志監督)などがある。
【プロデューサー賞】
協会加盟社からの推薦を募り、理事で構成される選考委員会にて受賞者を決定。
第28回 授賞式
日時: 2023年 12月 8日(金) 13:00〜15:00
(授賞式 13:00 ~ 13:30 祝賀パーティー13:30 ~15:00)
会場:如水会館 2Fスターホール
(千代田区一ツ橋 2-1-1 tel:03-3261-1101)
主催:協同組合 日本映画製作者協会
特別協賛:東京テアトル株式会社
協賛:
松竹株式会社 東宝株式会社 東映株式会社 株式会社KADOKAWA 日活株式会社
日本映画放送株式会社 株式会社WOWOW 株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス 株式会社ファンテック Palabra株式会社 日本テレビ放送網株式会社
株式会社テレビ朝日 株式会社TBSテレビ 株式会社テレビ東京 株式会社フジテレビジョン
株式会社U-NEXT
後援:文化庁
2023年度
最終選考監督/作品
選考対象200作品の中から10名(10作品)が最終選考監督に選ばれました
受賞者は11月24日に発表いたします。
(敬称略/劇場公開順)
中川駿 『少女は卒業しない』
松本優作 『Winny』
佐近圭太郎 『わたしの見ている世界が全て』
二ノ宮隆太郎 『逃げきれた夢』
眞田康平 『ピストルライターの撃ち方』
福永壮志 『山女』
工藤将亮 『遠いところ』
森脇由二 『ブリング・ミンヨー・バック!』
川北ゆめき 『まなみ100%』
小辻陽平 『曖昧な楽園』
受賞者には、正賞として故・新藤兼人監督デザインのオリジナルトロフィーと、副賞として、
金賞には賞金50万円ならびにUDCast賞(※1)、銀賞には賞金25万円を贈呈します。
※1 UDCast賞:Palabra株式会社より、
金賞受賞作のバリアフリー版制作及びUDCastを提供。
受賞作がバリアフリー化されている場合は、金賞受賞監督の次回作に提供。
2023年度
新藤兼人賞 金賞
監督/脚本
小辻 陽平
YOHEI KOTSUJI
1985年福井県生まれ。ENBUゼミナール監督コース卒業後、特別支援学校で教員として働きながら自主映画製作を行っている。初監督作品『岸辺の部屋』(17)が仙台短編映画祭2017「新しい才能に出会う」部門に入選。
初長編作品となる本作は、第36回東京国際映画祭コンペティション部門選出後、ポレポレ東中野ほかで劇場公開。
コメント
はじめまして。『曖昧な楽園』という映画を監督しました小辻陽平と申します。この度は日本映画製作者協会の皆様、そして審査員の皆様、このような素晴らしい賞を下さいまして本当にありがとうございました。これまで数々の素晴らしい日本映画作品を生み出されてこられた皆様から、このような小さな自主映画に光をあてて下さいましたこと本当に光栄に思っておりますし嬉しく思っております。またこの作品はスタッフ俳優とお互い対等な立場で自由に意見を出し合いながら作った作品です。ですので、僕以上にこの作品に関わってくれたみんながこれまで以上に活躍の幅を広げてくれることを僕も期待しておりますので応援下さいますととても嬉しいです。この映画は僕自身ひたすら自由でありたいと思って作った映画です。映画というのは自由なものだと思います。自由な映画を作るためには自由な現場体制を作ることが必要なんだということがこの作品を作る過程で僕は学びました。これからもより自由な作品を目指して自分が一番楽しんで映画作りを頑張っていきたいと思います。この度は本当にありがとうございました。
『曖昧な楽園』
劇場公開日:2023年11月18日
監督・脚本:小辻陽平
撮影:寺西涼 照明:西野正浩 録音:中島光、太田達成、高橋信二朗
美術:猪狩裕子、石倉研史郎、山崎綾乃、藤村嘉忠 編集:小辻彩 整音:飯田太志
制作協力:サウンドブリックス 音楽:Osier(LuckGun) 主題歌:アカリノート『星の駱駝 曖昧な楽園Ver』
宣伝デザイン:ウタリトリ(濱本順由、岩瀬直美、佐藤若菜)
出演:奥津裕也、リー正敏、矢島康美、内藤春、トムキラン、髙橋信二朗、竹下かおり、新井秀幸、文ノ綾、三森麻美
製作・配給:曖昧な楽園製作委員会
〔2023年製作/167分/PG12/日本〕 ©曖昧な楽園製作委員会
小辻陽平監督の長編デビュー作。2023年・第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された。
交通量調査員をしながら、同居する母の介護をしている達也。顔見知りだった老人が暮らす巨大団地へ通い、植物状態の彼の世話をしているクラゲ。久々に再会した幼馴染のクラゲと、老人を連れバンで旅に出る雨。不特定の場所と時間を舞台に、あてどのない旅を描いたふたつの物語は、決して交わることのないまま並行していく。
交通量調査員として働く達也(奥津裕也)は、身体の不自由になってきた母(矢島康美)と、一軒家で二人暮らしをしている。夜毎、母からのトイレを報せる呼び出しブザーが鳴り、日常的な介助に応じている達也。行き交う人々の数をかぞえて記録するばかりの仕事にも、カプセルホテルで過ごす夜にも、どこにも居場所を見出せずにいる。 クラゲ(リー正敏)は、顔見知りだった独居老人(トムキラン)の部屋へ毎日のように通い、植物状態の老人の世話をしている。だが、老人の住む団地は老朽化によりもうすぐ取り壊されようとしていた。ある日、久しぶりに再会した幼馴染の雨(内藤春)を老人の部屋に案内するクラゲ。ささやかな交流を深めていくなかで、団地の取り壊し期日は迫っていく。やがてクラゲと雨は、老人を連れてバンで旅に出るが……。それぞれの抱える家族についてたどる旅の物語。
2023年度
新藤兼人賞 銀賞
監督/脚本/編集
佐近 圭太郎
KEITARO SAKON
1990年、千葉県育ち。監督・脚本。日本大学芸術学部映画学科監督コース首席卒業。池松壮亮主演の短編『家族の風景』がTAMA NEW WAVE映画祭特別賞・主演男優賞など多数受賞。短編『女優 川上奈々美』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭に入選、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018にて正式上映される。
2020年には初の長編『東京バタフライ』が劇場公開。また読売新聞×日本看護協会主催BS日テレ連続ドラマ『Memories〜看護師たちの物語〜』ではプロデューサーを務める。2022年にはEXILEの小林直己 主演短編ドラマ『アイの先にあるもの』の監督を務め、2023年には長編二作目となる『わたしの見ている世界が全て』が劇場公開された。
コメント
『わたしの見ている世界が全て』を監督した佐近圭太郎と申します。この度は大変歴史深い、大変光栄な賞を頂けて感無量です。本作を掬い上げて下さった審査員の皆様をはじめ、ここまで僕を導いてくれたスタッフ、キャスト、そしてクラウドファンディングでご支援頂いた方々に改めまして厚く御礼申し上げます。
この作品はタイトルにもありますように『わたしの見ている世界が全て』という自分のみている世界だけを信仰して他者の世界とかを顧みなかったり、想像力の無い人とか、その振る舞いに対して僕は凄く違和感を感じてきたことがありまして、なのでそういった振る舞いみたいなものを最初は糾弾したい、みたいな一丁前の思いで進めていったんですが、結果的に作品が出来上がったものを見てみると、目的のために手段を選ばなかった主人公の遥風が悪者にならずに断罪ということにならなかったんですね、結果的に。それはなぜだろうと。僕は映画を作っていて、皆さん、今日、監督の方もいらっしゃると思うんですけど、僕がある組の中枢にいて、何か物を作ろう、何か目的を達成しようとなったらどうしても規制ではないですけども、誰かに負担を強いなければならないという部分があると思うんです。なので、やはりそのバランスの中で生きていかなければいけないなぁというのは常々思っていて、なので適切な恐怖心、人の心を自分の行いが蝕んでしまうかもしれないという適切な恐怖心を持ち続けながら物を作っていったり、何かに取り組んでいかなければいけないな、ということを僕は自分でこの作品を通して知ることが出来ました。
この作品は自主配給という形で、映画祭に40、50くらい出したんですけど、なかなか引っかからずに、なかなか配給も難しいとなって、最終的に自分で映画を届けるところまで責任を持とう、ということで自主配給という形にさせて頂いたんですけども、それを通して、初めて、宣伝、配給ということを通して、自分の中で見えてくるものがあって、自分の一人で考えていた時間が現役のプロデューサーの方々に「あ、こいつと仕事したいな」と思ってもらえたということは本当に自分にとってかけがえのないことだなぁと思っています。なので、自分のために作品を作るというのは限界があって誰かに期待をかけられてその期待に120%で応えることでしか今後、長く生きていくことは出来ないと思っておりますので「あいつに賞を与えてよかったな」と思えるような生き方をしたいし、そういう人間であり続けたいなと思います。本当に皆さんありがとうございました。
『わたしの見ている世界が全て』
劇場公開日:2023年3月31日
監督・編集:佐近圭太郎
脚本:末木はるみ、佐近圭太郎
エグゼクティブプロデューサー:石川俊一郎、木ノ内輝 プロデューサー:福田涼介、石森剛史 撮影:村松良
照明:加藤大輝 録⾳:伊豆田廉明 音楽:大橋征人 ヘアメイク:タカダヒカル 衣裳:若槻萌美 スチール:髙木美佑
助監督:内田新 制作担当:石渡友作 美術:畠智哉
出演:森田想、中村映里子、中崎敏、熊野善啓
製作・配給:Tokyo New Cinema
〔2022年/日本/カラー/アメリカンビスタ/G/5.1ch/82分〕 © 2022 Tokyo New Cinema
一人で生きることがもてはやされる現代――いつも自分を優先してきた遥風(はるか)が、母の死をきっかけに疎遠だった兄弟との交流を重ね、大切なことに気づいていく様を描いたヒューマンドラマ。『東京バタフライ』(2020年)で初の長編作品となった佐近圭太郎監督の最新作。
遥風(森田想)は、家族と価値観が合わず、大学進学を機に実家を飛び出し、ベンチャー企業で活躍していた。しかし、目標達成のためには手段を選ばない彼女はパワハラを理由に退職に追い込まれる。復讐心に燃える遥風は、自ら事業を立ち上げて見返そうとするが、資金の工面に苦戦。そんな折、母の訃報をきっかけに実家に戻った遥風は、3兄弟に実家を売って現金化することを提案し、「家族自立化計画」を始める―。
《 2023年度
新藤兼人賞 金賞・銀賞 審評 》
〈 総評 〉
審査委員長 永井拓郎(RIKIプロジェクト)
映画界に長らく影を落としてきた新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した年でもあり、映適が発足した年でもある2023年は、後から振り返ると映画界にとって転機の年になるのではないでしょうか。
今年の新人監督作品は200本上映されました。秀作が多く、最終選考に残った10作品はいずれも優れた作品で、20以上の最終選考候補作が残る中、審査員でも票が割れ、多くの議論を重ねました。最終選考作品を10本にするのか、もっと増やすべきか、様々な意見が交わされ、最終選考作品は10本となりました。それほど、甲乙つけがたい作品群が並んだ年でした。
金賞、銀賞の選考は最終的に『曖昧な楽園』『わたしの見ている世界が全て』『少女は卒業しない』『ピストルライターの撃ち方』『山女』の5作品に絞られ、最後の最後まで審査員の意見が割れ、審査会に例年の倍以上の時間を費やしました。
接戦でしたが、言い換えれば新人離れした突き抜けた作品ではなく、総合力が高い作品が揃った年でした。
金賞の『曖昧な楽園』は画への執着、台詞を徹底的に排除した小辻陽平監督の突出した個性が一際光った作品でした。既存の方法論に囚われない演出方法も小辻監督にしか表現できない作品になったことに大きく寄与していました。
銀賞の『わたしの見ている世界が全て』の佐近圭太郎監督は脚本作りの適格さ、その後の演出、(恐らく)限られた条件の中での世界観の構築、全てにおいて高いレベルを獲得しており、今後の活躍が最も期待できる監督のおひとりです。
海外でも評価されている『山女』の福永壮志監督は作品ごとに力強さと深度を増しており、初期の集大成的な作品でした。自身が向き合いたいテーマを映画に描き続ける姿勢に頭が下がります。『少女は卒業しない』の中川駿監督は原作の世界を今後日本映画を背負っていくであろう若手俳優陣の生身の身体を通して、リアルに瑞々しく表現する手腕が素晴らしかったです。
『ピストルライターの撃ち方』は眞田康平監督の視座によって重い題材を見ている側に強要せずに私達の日常の延長線上の事柄として感じさせる作家性が発揮されていました。『Winny』の松本優作監督は前作『ぜんぶ、ボクのせい』から感じる作品に対する誠実さ、向き合いが見事に数段上のレベルで結実していました。今後、ど真ん中のさらに力強い作品を期待します。『逃げきれた夢』の二ノ宮隆太郎監督は光石研さんの新たな代表作を生み出しました。俳優との共犯関係を作り出し、映画に対して高いレベルの表現にチャレンジしており、次作にも期待しています。『遠いところ』は取材を重ね、誰も知らない沖縄の貧困の実態を劇映画として演出しきった工藤将亮監督の力量を見せられた作品でした。『まなみ100%』は川北ゆめき監督ご自身の経験を基にしているだけあり、ピュアさとチャーミングさに溢れていました。まなみの次のテーマでの監督作品をどのように紡ぐのかを見てみたいです。ドキュメンタリー映画の中で唯一の最終選考作品となった『ブリング・ミンヨー・バック!』は民謡という題材も切り口もとてもユニークで森脇由二監督の次回作に何を選ぶのかをワクワクしながら待っております。惜しくも最終選考には残らなかったですが『浦安魚市場のこと』、『二十歳の息子』『マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究』『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ロックと家族の絆』も秀作でした。この4作品以外にも、冒頭にも記した通り、最終選考作品を決めること自体が大変な年でした。『そばかす』『あつい胸さわぎ』『茶飲友達』『アイスクリームフィーバー』『神回』『ほつれる』『さよなら ほやマン』は素晴らしい作品でした。来年も多くの新人監督作品が作られることと想像します。世界的にも長編映画3作目までが新人にカテゴライズされます。新たな才能を持った監督の個性と作家性に満ちた、驚きをもたらせてくれるような映画が作られることを願っております。
《 2023年度
新藤兼人賞 金賞・銀賞 審査講評 》
宇田川 寧(ダブ)
今回新藤兼人賞を受賞したお二人の監督、誠におめでとうございます。今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
今年度は、2019~21年に審査員をやらせていただいた当時よりも更に作品数が増え、対象作品は200本でした。監督はもちろんスタッフキャストの熱量が画から感じられることに加え、原作かオリジナルか関係なくその脚本構成力、そして『この監督と次に仕事をしたい』と思わせてくれる作品としては、金銀賞含むノミネート作品すべて、申し分のない作品群であったと思います。惜しくもノミネートを逃した作品でも、多くの魅力ある作品がありました。これからは、独立系映画も作家性と商業性という対極にある2つの軸でどうバランスを取っていけばいいのか、その答えは作品ごとに異なると思いますが、監督たちの熱量や統率力なしに作品が成立することはないと思いますし、そこから生まれる新たなる才能といかに一致協力できるか、いちプロデューサーとして考え、業界全体を盛り上げていくかが大事だと思っています。対象作品には今年も多くのドキュメンタリー作品がありましたが、『二十歳の息子』『浦安魚市場のこと』の2本は特に印象に残る作品でした。
三宅はるえ(ブースタープロジェクト)
本年度の新藤兼人賞の選考対象は200作品。配信を含めた様々なコンテンツ表現が広がる中、劇場公開3本目までの監督の作品がこれだけの数あることに勇気をもらい、新しい才能を育てていく大切さを改めて感じております。
金賞の小辻陽平監督『曖昧な楽園』は画も音もミニマムな静謐さを湛えた作品。監督が丁寧に温めてきたであろう題材や場所を舞台に、独特な浮遊感のある世界へと誘ってもらいました。今後商業映画をどう捉えていくのか、プロデューサーと組むとどういう変化が起きるのか、大変興味深いです。
銀賞の佐近圭太郎監督『わたしの見ている世界が全て』は人間関係だけでここまで見せられる力量に驚きました。もうひと方脚本家がいらっしゃることを考慮した上でも、この会話劇の構築は類い稀な演出力であり、嬉しい逸材だと感じました。
最終選考作品のうち、中川駿監督『少女は卒業しない』は感情を乗せすぎない低温な雰囲気、何かを抱えたまま溢れそうな高校生の心情表現が素晴らしかったです。また眞田康平監督『ピストルライターの撃ち方』は救いのない話をどこか良心や希望が垣間見える構成とし、邦画と韓国映画が融合したような新鮮味をおぼえました。ドキュメンタリーの森脇由二監督『ブリング・ミンヨー・バック!』は鑑賞後の多幸感が忘れられません。古きものと新しいものの融合、ジャンルや国を超えた普遍性の伝え方が魅力的でした。そして福永壮志監督『山女』への他の審査員陣からの評は、ご一緒した私自身が誇らしかったです。
本年度も素晴らしい作品に出会う機会を与えていただいた感謝とともに、すべての監督の次回作に心より期待しております。
佐藤美由紀(オフィス・シロウズ)
新藤兼人賞、今年も激戦でした。過去の受賞者も含め、金賞・銀賞を受賞するということがどれほど大変なことであるか、身に染みて感じます。ほんと、凄いことです。おめでとうございます。金賞の小辻陽平監督『曖昧な楽園』は167分という大長尺ながら、画の切り取り方、編集のリズムがとても心地よく、映画の力を改めて感じさせてくれる静かで優しく力強い作品でした。未知なる才能との遭遇に興奮し、世の中にこの監督の存在を知らせたいという強い衝動にかられました。銀賞の佐近圭太郎監督『わたしの見ている世界が全て』はウィットとペーソスのバランスが絶妙で、家族離散の物語をこんなにも明るく描ける才能はとても貴重に思えました。勝気なヒロインの造形も好みでした。そして個人的に川北ゆめき監督の『まなみ100%』を偏愛しています。作品から漂う屈託のなさのレベルは尋常ではなく、青春映画の新たな金字塔と思っています。今年もドキュメンタリーは秀作が多く、森脇由二監督『ブリング・ミンヨー・バック!』は、それが「民謡」の持つ力なのか、世の中の閉塞感を吹き飛ばすようなエネルギーに溢れた作品でした。惜しくも最終選考には残りませんでしたが、島田隆一監督『二十歳の息子』もノーナレーションと最低限のインタビューのみで人間の心に肉薄する、という高度な手法が成功している作品でした。
今年も、多くの宝に出会えたことをありがたく思います。
吉村知己(ヨアケ)
最終選考作品は、(本数に決まりは無いのだが)昨年同様10本。毎年審査員間でどの作品を残すか悩みに悩むわけですが、昨年は比較的すんなりいった印象。今年は混迷!わかりやすくいうと“揉めました”。昨年は女性監督が四名、今年は選ばれなかった。意図は何もないのだが、このご時世では“問われる”ことかもしれない。
金賞の小辻陽平監督『曖昧な楽園』は生者が死者のように、死者が生者のように存在し、お互いが言い分なく混じり合う“曖昧さ”が心地よかった。小辻監督は普段はお堅いお仕事をされていると聞いた。どのように世界を見ているのか。次作が楽しみです。銀賞『わたしの見ている世界が全て』の佐近圭太郎監督。勝手な印象だが、この作品をこう作れるのであれば、どんなジャンルでもシリーズものでもあらゆる方向に行けるのではないか。ソクーロフのような小辻監督、Netflixのような佐近監督。対照的だが共に現代性を帯びている金賞・銀賞のお二方、おめでとうございます。
ここから余談です。新藤兼人賞の対象となる劇映画には何百人(何千人?)の俳優が存在する。個人的に印象に残っているのは、『曖昧な楽園』『ピストルライターの撃ち方』の奥津裕也、『まなみ100%』ほか主演作が3本あった青木柚、『遠いところ』の花瀬琴音、『茶飲友達』の岡本玲、『さよなら ほやマン』の黒崎煌代、『なぎさ』の山﨑七海、『ピストルライターの撃ち方』の中村有、『逃げきれた夢』の吉本実憂…あ、キリがなさそうなのでここでやめます。
最後に。最終選考外だが心に残ったドキュメンタリー作品に『浦安魚市場のこと』を挙げたい。
2023年度
新藤兼人賞
プロデューサー賞
企画
角川 歴彦
TSUGUHIKO KADOKAWA
1966年角川書店入社。情報誌『ザテレビジョン』『東京ウォーカー』、ライトノベル『電撃文庫』『角川スニーカー文庫』など新規事業を立ち上げ、メディアミックスと呼ばれる手法で日本のサブカルチュア文化を牽引する。 また電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」を開設するなど、デジタル事業にも積極的に取り組む。 一方、創業者 角川源義の遺志をついで日本文化に貢献する出版文化事業を継承している。 映画製作者として『失楽園』(1997年)、『沈まぬ太陽』(2009年)、『空海KU-KAI 美しき王妃の謎』(2018年)、『Fukushima 50』(2020年)他、多数世に出した。 著書に『グーグル、アップルに負けない著作権法』『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編』他。 2022年KADOKAWA取締役会長を辞任。
コメント
新藤兼人賞という僕の尊敬する偉大な先輩の名前を冠した賞を頂きました。本当に感動しております。ありがとうございます。僕は今、こういう晴れがましいパーティーに出ていいのか、あるいはこういう賞を頂いていのか、ということを逡巡しました。保釈の身でありますから。ですけども、この僕を選考して下さった選考委員の皆さんの粋な配慮と大いなる男気に感謝して喜んで受賞させて頂くこととしました。僕は今、一介の素浪人で、名刺も持っておりませんし、僕の履歴書は白紙のままですけども、今日は一行そこに加えることができるなぁと思って心から喜んでいます。
『月』は非常に難産な映画でして、映画というのは必ず一本一本、物語があります。ですから、これも『月』という物語に起こったことですけど、今日はここにいらっしゃらないお二人の名前を出さないとこの『月』は映画世界に送り出せなかっただろうと思います。
お一人は石井(裕也)監督です。石井監督は、僕は、映画は色々観ていて、センスの良さですとか感じておりました。今回は脚本を書いてくれましたし、角川文庫の辺見庸さんの原作(『月』)の後書きまで書いてくれて、本当にいい映画を作ってくれました。彼の人間的な温かみが、映画の方も見終わった後に後味のいい映画にしてくれたと思います。僕は新宿パルコで観たんですけど、観終わった後に観客から拍手が出まして、なかなか、拍手が出る映画、試写会は出ますけど、劇場の方で出ることは少ないので、非常に感動したのを覚えています。また河村(光庸)君は、本当にこの難しい映画をKADOKAWAでは作れないなと思って河村君のスターサンズに任せました。彼は晩年になってから芽が出て、年齢は年齢ですけど映画界では夭折だと思っています。きっとこの賞を天上から喜んでくれていると思います。
映画というのは総合芸術ですからこの映画に参加した方、四人の主役級の俳優の皆さん、また、現場の撮影、技術や音楽、スタッフの皆さん、その方々にも感謝したいと思います。
改めて今回、選考委員の皆さんに心からの感謝を致しまして受賞の言葉とさせて頂きます。ありがとうございました。
『月』
劇場公開日:2023年10月13日
監督・脚本:石井裕也 企画・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 企画:角川歴彦
製作:伊達百合、竹内力 プロデューサー:長井龍、永井拓郎
アソシエイトプロデューサー: 堀慎太郎、行実良 撮影:鎌苅洋一 照明:長田達也 録音:高須賀健吾
美術:原田満生 美術プロデューサー:堀明元紀 装飾:石上淳一
衣装:宮本まさ江 ヘアメイク:豊川京子、千葉友子(宮沢りえ) 特殊メイク・スーパーバイザー:江川悦子
編集:早野亮 VFXプロデューサー:赤羽智史
音響効果:柴崎憲治 特機:石塚新 助監督:成瀬朋一 制作担当:高明 キャスティング:田端利江
出演:宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里、二階堂ふみ、オダギリジョー
制作プロダクション:スターサンズ 制作協力:RIKIプロジェクト 配給:スターサンズ
[2023年/日本/144分/カラー/シネスコ/5.1ch] © 2023『月』製作委員会
元有名作家の堂島洋子(宮沢りえ)は重度障害者施設で働きはじめる。そこで洋子は他の職員による入所者への暴力を目の当たりにする。洋子と同様、理不尽な状況に憤る施設職員の同僚のさとくん(磯村勇斗)。さとくんが持つ正義感や使命感が思わぬ形に変容し、その日はついにやってくる―。
実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした辺見庸の小説『月』を原作に石井裕也監督が映画化した。
《2023年度 新藤兼人賞プロデューサー賞 講評》
2023年度プロデューサー賞は、例年通り、当組合員より推薦された候補者の中から理事会での討議を経て理事による投票によって決定された。 候補者は(敬称略)、原田満生(『せかいのおきく』)、國實瑞惠(『逃げきれた夢』)、小林三四郎、他プロデューサーチーム(『福田村事件』)、鈴木祐介(『日本統一』他)、松井俊之(『THE FIRST SLAM DUNK』)、平野隆(『ラーゲリより愛を込めて』)、鈴木敏夫(『君たちはどう生きるか』)、角川歴彦(『月』)、松橋真三(『キングダム 運命の炎』)、押田興将(『さよなら ほやマン』)。 様々な議論があった(1.美術家=原田、俳優事務所代表=國實による果敢なるプロデュース、2.長い時間を費やし作られたアニメーションのマスターピース=鈴木敏夫、松井、3.近年の目覚ましい活動=平野、鈴木祐介、松橋、押田)。 長い討論の末に、最終候補として浮上したのは、いまの日本社会の問題点に鋭く切り込んだ『福田村事件』と『月』、2本の映画のプロデューサー陣だった。 最終投票で受賞対象は『月』、受賞者は角川歴彦氏に決まった。(当組合の組合員でもあり、昨年6月に逝去された河村光庸氏も実質的にこの映画の責任を持つ『企画』に角川氏とともにクレジットされているが、河村氏は既に2019年に本賞を受賞していることから、角川氏の単独受賞となった。) 新藤兼人賞監督賞の選考基準はとても明解だ。我々プロデューサーが内容においても商業的な観点においても「いっしょに仕事をしたい監督」を選ぶことになっている。かたやプロデューサー賞はどうかと言うと明確な基準が実はない。同じ生業の徒として「あいつらとんでもなくスゲぇな、ヤバいな」と、尊敬の念を持ちうるか、が唯一の基準と言えるだろうか。 『月』という作品が骨太で強度のある上質な作品であることは言うまでもないのだが、それは出来上がってから言えることであり、製作前に、相模原で起こった重度障がい者殺傷事件をモチーフに、億を超える予算が必要な商業映画を作ろうとする企画者が遭遇するであろう困難を、私たちプロデューサーは誰よりも知っている。 この作品を世に送り出すために蛮勇を奮った角川さん、河村さん、それから、選に漏れはしたが、関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺をテーマに選んだ『福田村事件』のプロデューサーズに改めて賞賛の言葉を贈ります。 角川さん、おめでとうございました!
協同組合日本映画製作者協会 理事 孫 家邦(リトルモア)
過去受賞結果
年 度
金 賞
銀 賞
プロデューサー賞受賞者
1999年
けんもち聡 『いつものように』
1998年
荒井晴彦 『身も心も』
1997年
松井久子 『ユキエ』
是枝裕和 『幻の光』
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